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わたしの新しい世界 -アメリカ留学体験記(2)-

初めて行くアメリカのスーパーは楽しかった。店も売っている商品もとにかく大きく、日本では見かけないようなビビッドな色のお菓子がずらりと並んでいた。興奮した私は、現地の大人ならまず買わないようなディズニーキャラクターのショッピングバッグや、当時大好きだったマーベルの子供向けのお菓子を買った。舞い上がっている自分を少し恥ずかしく思いながらも、ずっと来てみたかったアメリカにやっと来ることができたことを嬉しく思っていた。

けれど、途中でスーパーの雰囲気がどこかおかしいことに気がついた。全体的に活気がなく、人はたくさんいるのに妙に静かで、どんよりとした雰囲気があった。周りをよく見渡してみると、スーパーにいるのは白人ばかりで、見た目がアジア人で日本語という外国語を話しているのは私たちだけだった。そのせいで目立っていたのか、私たちはいつの間にか周りの人たちにジロジロと見られていた。それはまるで私たちが何か悪いことでもしているかのような、明らかに嫌悪感のある目線だった。

途端に居心地が悪くなり、少し身の危険を感じたので、できるだけ早く帰ろうとした。そして選んだ品物をレジに持って行き、清算しようと列に並んでいる時、後ろからとても強い視線を感じた。思わず振り返ると、後ろに並んでいた白人の親子2人が、まるで汚いものを見ているような目でこちらを睨んでいた。

その目は言葉では言い表せないほどの敵意と侮蔑に満ちていて、私は予想もしていなかった強い悪意に突然さらされて、頭が真っ白になり、足がすくんだ。まだ中学生くらいに見える子供のほうは、まるで母親からそうするのが正しいとでも教えられたかのように、全ての力を使ってこちらに憎悪をぶつけようとしているようだった。それは母親よりもさらに遠慮のない、純粋とも言えそうな憎悪だった。「まだ子供なのに」という言葉が頭に浮かび、その姿は私の心に深く突き刺さった。

その時アメリカに着いたばかりだったので、私はデパートなど以外ではあまり使われていないという100ドル札ばかりを持っていた。それを使うと、レジの店員は露骨に不機嫌な顔をして私を睨んだ。彼女はレジの中をしばらく探ったり、他のレジ係に軽く話しかけたりしたあと「おつりがない」と言った。その間5分ほど、体感時間にすると1時間ほどのあいだ、後ろの白人親子は悪意に満ちた表情で私を睨み続け、ときおり2人でこちらを見ながらニタニタと笑い合っていて、それが私の焦りに拍車をかけた。私はおつりがないと言われても、どうすればいいのか分からずに突っ立っていると、とうとう耐えられなくなった後ろの母親が突然「もうこれでいいでしょ!こっちは疲れて早く帰りたいんだよ!」と大声で叫びながら、私に力いっぱい1ドル札を2枚押し付けてきた。その衝撃で私は危うく倒れそうになったが、その子供は去り際でも、いつまででも私のことを全力で睨み続けていた。レジの店員もせいせいした、という表情だった。
その時とても混乱していて、本当はいくらおつりをもらうべきだったのかを全く覚えていない。私はその時買ったものを見るたび、この出来事を思い出した。明らかな人種差別だった。

その日は予想していなかった大雨が降り、私たちは数リットルの水や食料品を大量に持って、その重さと大雨に泣きそうになりながら寮へ向かった。信じられないくらい薄いビニール袋は途中で簡単に破れ、中に入っていた水や食料品が濡れた暗い道路で転がった。それをびしょ濡れになりながら全て拾い集めたが、袋のなくなった荷物のあまりの重さに、私は水を1本道路の端に置いて帰ろうとした。するとジニが「諦めちゃダメ!」と言って私のぶんの荷物を持ってくれて、なんとか寮の近くまで歩くことができた。寮の建物が見えた時は、今日来たばかりなのにもうすっかり家に帰ってきたような気分だった。中に入ると、びしょ濡れになりながら食料品を必死に抱えている私たちの姿はあまりに哀れで格好悪く、「誰にもこの姿を見られたくないね」と言いながら、途中で転がっていった食品や、水を置いて帰ろうとしたことを思い出して2人で笑い合った。

その夜、私たちを不憫に思った大学の職員の1人が車を出してくれることになった。Targetという大抵のものは何でも揃う大きなスーパーに連れて行ってもらい、そこで寝具やドライヤーなどの生活必需品を買った。スーパーでの出来事と同じ世界の住人とは思えないほど、その職員さんや同行してくれたRAは本当に親切で、買い物をする時も、荷物を運ぶ時も常に手伝ってくれた。

そして白人男性の2人と一緒にいることで、他の人からジロジロと見られることは、先のスーパーと比べてずっと減っていた。彼らはそこで変に注目されることもなく、嫌悪感を持った目で見られることもない「普通」の人たちだった。そしてそれは、私たちが私たちである限り、なれないものだった。