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生き物の研究とデザインに励む 木下千尋さんにインタビュー

大学院で生き物の生態について研究をされている木下さん。現在、アカウミガメの研究費獲得のためにクラウドファンディングに挑戦中ですが、そのリターンや解説イラストなども全て木下さんがデザインされているそうです。今回は、研究だけでなくデザイナーとしても活動されている木下さんにインタビューをしました。

──クラウドファンディングをしようと思ったきっかけを教えてください。
研究の世界では、財団や企業に申請書を書いてお金を集めるというのが主流なんですが、それには計画書や文章、業績が必要になります。今回のウミガメの研究のために2つの機関に申請書を書いたのですが、2つとも採用されませんでした。採択率も低いですし、潤沢な資金が集められないとなれば研究規模を縮小しないといけないなと思っていました。ちょうどそのときに、academist(アカデミスト)という学術系クラウドファンディングサイトの方からお声がけいただき、クラウドファンディングに挑戦してみたいと思うようになりました。

──クラウドファンディングをすることに不安はありましたか?
クラウドファンディングをすることにも賛否両論あって、自分みたいに大きな業績もない研究者がSNSなどを使ってクラウドファンディングをやっていると、“チャラい”というイメージを持たれることがあるのでやりづらいという気持ちもありました。また、研究活動が一般の人の目に触れることで生き物が可哀想という声をもらうこともあります。そのようなときは、大学の動物実験に関する倫理規則に従っていることや、動物福祉の考えに基づく方法を採用して最大限に注意を払っているということをお話しします。これらも全て先生と相談をして、結果的にウミガメの保護や一般の人たちにウミガメの生態を知ってもらう活動に繋がるということで、クラウドファンディングをやろうと決断しました。

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    クラウドファンディングのリターンとなるパンフレットの一部

──クラウドファンディングで研究費は賄えるのでしょうか?
今回のクラウドファンディングが成功すれば、3〜4年は研究できそうです。でも、モニタリング調査なのでウミガメの場合だと数年では結果が出ず、海洋環境によっても時期や状況が変わってくるので何百年もの話になるんです。研究者はお金を取ってこないと研究ができないにもかかわらず、すぐに結果がでるものでもないので10年や20年などのスケールで継続して研究を続ける必要があります。日本には10年や20年安心して集中して研究ができる場所って本当に少ないので、満足な結果が出ないまま次の職を探すことに時間を費やさなければいけません。本当だったらその期間を勉強に費やすことができたらいいですよね。若い人が研究しづらい状況で、しかもその中でも少ない椅子を取り合っています。クラウドファンディングは新しい研究費獲得の一つなので、そのような意味でも試せて良かったです。これからの研究者のために、新しいお金の集め方が確立されていくといいなと思います。

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    ブタバナガメの誕生

──研究者の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
子どもの頃に図鑑を読み、生き物の体の仕組みに興味を持つようになりました。サカナのお腹が白いのは、敵から身を守るためなんですが、その理由を初めて知ったときにすごく感動したのを覚えています。海の底は暗いので、空から攻撃してくるウミドリは暗い色をしたサカナの背中を見つけることが困難です。反対に、海の底から見上げた空は明るいので、泳いでいるサカナを下から突こうとしたサメは白いお腹をしたサカナを見つけることが難しいそうです。これはカウンターシェーディングというの体の仕組みなんですが、このように生き物の色や形、行動にはすべて意味があるということを知り面白いと思えたことが、生態学を学びたいと思うようになったきっかけです。

──デザインの仕事もしようと思ったきっかけを教えてください。
絵を描くことが好きで、子どもの頃からずっと紙に絵を描いてました。学部生のとき、周りの人たちが就職活動を始めるなか自分も少しやろうとしてみたのですが、何か自分の中で納得できないものがあったのでデザイン事務所にインターンシップをしてみることにしたんです。そこでイラストレーターやフォトショップといったソフトウェアに触れて、デザインの仕事や論文のイラストに役立ちそうな技術を身に付けました。論文って意外と図や絵を載せることが多いので、デザインができると便利なんです。でも、指導教官の方針で可能な限り研究に集中しなければいけなかったので、デザインの仕事は深夜や朝方に時間を作って取り組みました。それが楽しかったり、勉強の息抜きになったりしました。

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    東京都利島村に定住するミナミハンドウイルカのグッズデザイン

──これからどのようなデザインの仕事をやってみたいですか?
生き物に関する絵本を描いてみたいです。もし、研究結果をまとめて絵本にできたら、子どもたちが簡単に生き物の面白さに触れることができるようになると思うんです。例えば、ウミガメの背中にはたくさんの生き物が住んでいることを絵本で知ることができたら、水族館でウミガメを見たときにウミガメの背中の上の生き物にも興味を持つかもしれませんよね。

──絵本の内容は考えてありますか?
今はふたつほど内容を考えています。ひとつはウミガメの背中にはたくさんの生き物たちが住んでいてひとつの生態系が作られているという話と、もうひとつはスーパーで売られているようなシロザケがアラスカやカムチャッカなどを旅して私たちのもとへやってきているという話です。どれも嘘みたいで本当の話です。私たちがいつも目にしているのは、生き物たちの人生のうちのほんの一瞬の部分で、私たちが知らないところで面白いことがたくさん起きているということを描きたいです。子どもだけでなく大人も、今までよく知っていた生き物を見る視点に変化があれば、きっと楽しくなると思います。

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    北海道厚岸町 こちらを見るエゾシカ

──世界を見る目が変わりそうですね。
今まで気にしたこともなかったところに興味を持つようになったり、こういう生き物が住んでいるところに自分も住んでいるということに気付いたりするようになれば、自分の周りで何が大切かを考えられるようになると思うんです。この木には珍しい生き物が住んでいるから切るのをやめようとか、ウミガメのために海を綺麗にしようとか。利益などでなく、本当に大切なものが分かるようになる。そのように、絵本を読んだ子どもたちが世界を考えてくれるようになったら嬉しいです。

──目標について教えてください。
研究者として生き物の生活様式を解明していくほか、研究者と一般の人との橋渡しになりたいと思っています。生き物について分かったことって、研究者同士では論文を読んだり学会発表でディスカッションしたりして共有できるんですが、一般の人たちにはまだ伝わってない生き物の面白さってたくさんあると思います。デザインを通して、一般の人たちへ情報を伝える際の潤滑油のような役をしたいです。

木下 千尋(Chihiro Kinoshita)
東京大学大学院農学生命科学科 博士課程前期
研究者兼デザイナー。ウミガメのモニタリング調査資金獲得のためクラウドファンディングに挑戦しています。

木下さんがウミガメの研究費獲得のためにサポーターを募集されているクラウドファンディングはこちらから(2017/2/7まで)
「ウミガメはどこで青春時代を過ごすのか?追跡調査で解明したい!」

本文中の写真は全て木下さんにご提供いただきました。